エリザベス・ヴァンハイム
サポート役
アルフレッド・ヴァンハイム
ガレス・ストーンハンマー
タンク役
マーリエル・グレイビアード
メンター
ルナ・シルバームーン
レンジャー役
森の奥深くで、アルフレッドは膝をついて地面を見つめていた。子供たちの足跡が、まるで消しゴムで消されたように途切れている。
「おかしい...」彼は眉をひそめた。「足跡がここで完全に消えている。魔法的な隠蔽工作か?」
エリザベスが心配そうに兄の肩に手を置く。「お兄様、もしかして...」
「ああ、何者かが意図的に痕跡を消している」アルフレッドは立ち上がり、周囲を見回した。
アルフレッドは前世の知識を総動員して状況を分析し始めた。彼の瞳が鋭く光る。
「まず、足跡の消失パターンを見てみろ。完全に消えているように見えるが...」彼は地面に手をかざし、魔力の流れを感知した。「微細な魔力痕跡が残っている。転移魔法だが、短距離転移じゃない。なぜなら...」
彼は消失地点の土を手に取り、鼻を近づけた。
「湿度が他の場所と違う。地下の空気に触れた痕跡だ。つまり、子供たちはここから地下に移動した」
ルナが弓を構えながら警戒する。「でも、地下への入り口が見当たらないわ」
「それは目に見える入り口を探しているからだ」アルフレッドは冷静に分析を続けた。「転移魔法を使うなら、物理的な扉は不要。魔法陣さえあればいい」
彼は消失地点から半径5メートル以内を細かく調べ始めた。
「犯人は計画的だ。この場所を選んだ理由がある。まず、街道から離れている。次に、古い森で自然な魔力が豊富。そして...」
彼の目がある一点で止まった。
「あの樫の木だ。樹齢300年はある。古い木ほど魔力を蓄積しやすい。それに、根元の配置が不自然に整っている。まるで魔法陣を隠すように...」
エリザベスが兄の推理に感心しながら樫の木を調べた。「お兄様、本当に...根元の土の色が微妙に違います。それに、魔力の流れも...」
「さすがだ、エリザベス。この樫の木の根元に隠し魔法陣がある」彼は魔法陣に手をかざした。「転移魔法と隠蔽魔法の複合術式。犯人は相当な魔術師だな」
さらに彼は頭を巡らせた。
「この規模の複合魔法陣を作るには、最低でも上級魔術師の実力が必要。しかも、この森の地理に詳しくなければこの樫の木を選べない。つまり...」
彼の表情が厳しくなった。
「犯人は領地内の人間だ。それも、ある程度の地位がある者。これだけの準備をするには、資金と時間が必要だからな」
魔法陣が淡く光り、地面が音もなく開いた。下には石造りの階段が続いている。
「みんな、気をつけて降りよう」
地下通路は思った以上に整備されており、松明が等間隔で設置されている。ガレスが先頭に立ち、盾を構えて慎重に進む。
通路を進みながら、アルフレッドは分析を続けた。
「この石組みの技術...最低でも10年前のものだ。つまり犯人は長期間この計画を練っていた。そして、この通路の方向性から推測すると...」
彼は頭の中で領地の地図を描き、通路の向きと照合した。
「街の中心部、おそらく貴族街の地下に繋がっている。犯人は貴族だ。間違いない」
ルナが通路の壁を調べながら言った。「アルフレッド、この工事跡...職人の手による丁寧な仕事ね。個人で秘密裏にできるレベルを超えている」
「その通りだ。これは組織的犯行だ」ルナの推理が冴えていた。「複数の共犯者がいる。魔術師、建築職人、そして資金提供者...」
しばらく歩くと、通路は広い地下室に繋がっていた。そこには魔法実験の器具が並び、檻の中には行方不明になった子供たちが囚われている。
「やはりな...」アルフレッドは予想していた光景を前に呟いた。「人体実験だ。魔法の実験台として子供たちを使っている」
「子供たち!」エリザベスが駆け寄ろうとした瞬間、黒いローブを着た男が現れた。
「ほう、まさか子供がここまで辿り着くとは」男の声は冷たく響いた。「だが、ここで見たことは墓場まで持って行ってもらおう」
男が杖を振ると、檻の中の子供たちの目が赤く光った。操られた子供たちがゆらりと立ち上がる。
「操り魔法か!」アルフレッドは剣を抜いた。「卑劣な...」
戦闘が始まった。ガレスが盾を構えて前に出る。「坊ちゃん、お嬢様を頼みます!」
操られた子供たちが襲いかかってくる中、ルナが的確に弓を放った。矢は子供たちの手足を狙い、動きを封じる。「殺さずに無力化するのよ!」
エリザベスは治癒魔法の詠唱を始めた。「光よ、癒しの力を...『ヒーリング・オーラ』!」淡い光が操られた子供たちを包み、操り魔法の効果を弱めていく。
「なるほど、治癒魔法で精神操作を解くか」アルフレッドは妹の機転に感心した。
しかし、黒ローブの男が本格的に攻撃を仕掛けてきた。強力な闇魔法がガレスの盾を直撃する。
「ぐあっ!」ガレスが倒れて気絶した。
男はさらに攻撃魔法を放った。ルナが矢で牽制しようとしたが、暗黒波動に巻き込まれて壁に叩きつけられ、意識を失った。
「ルナ!」エリザベスが治癒魔法を使おうとした瞬間、男の攻撃魔法が彼女を直撃する。
「きゃあ!」エリザベスも床に倒れ込み、動かなくなった。
アルフレッドは仲間たちが全員倒れたのを確認すると、周囲を見回した。誰も意識がない。誰も彼の真の姿を見る者はいない。
その時、アルフレッドの表情が一変した。前世の記憶が蘇り、10歳の少年の顔に大人の冷たい笑みが浮かぶ。
「ふん...」彼は黒ローブの男を見下すように立ち上がった。「君も魔術を探求する者のようだが...」
男が警戒した。この少年の纏う空気が突然変わったのを感じ取ったのだ。
アルフレッドは深く息を吸い、落ち着いた動作で構えを取った、数多くの戦場を経験した老練さが滲み出る。
「君は今日、運がいい」彼の声は静かだが、どこか重みがあった。
前世の記憶が一瞬蘇る。魔王軍の大軍勢を前に、この呪文を放った時のことを。あの時の轟音と閃光、そして敵軍の絶望的な表情...
「本来なら見ることのない、神話時代から伝わる古代魔法を目撃することになる」彼は小さく息を吐いた。
黒ローブの男が身構えた。「貴様...何者だ?」
アルフレッドは少し困ったような表情を見せた。まるで秘密を明かすかどうか迷っているような仕草。
彼は両手を天に向けて掲げ、まるで神に祈るような荘厳なポーズを取った。
「神話の時代から伝わりし、禁断の呪文だ!」
古代語の詠唱が地下室に響く。アルフレッドの声は威厳に満ち、まるで古代の大魔法使いが降臨したかのような迫力があった。
「天空を統べし雷帝よ、汝の怒りを以て敵を打ち砕かん...我が前に跪け、愚か者よ!『神雷嵐召喚(ディバイン・サンダーストーム)』!」
瞬間、地下室の空気が震えた。魔力の奔流が天井を突き抜け、遥か上空まで達する。領地の空に巨大な雷雲が渦巻き始めた。
街の魔術師マーリエルが自宅で茶を飲んでいた時、突然空を見上げた。
「この魔力は...まさか」彼女の翡翠色の瞳が驚愕に見開かれた。「神話級の雷魔法?この領地に、そんな術者がいるはずは...」
しかし、アルフレッドの小さな体では神話級魔法の制御は不可能だった。魔力が暴走し、雷光のエフェクトだけが空に踊って、肝心の攻撃は不発に終わる。
「くっ...」アルフレッドは膝をついて荒い息を吐いていた。「この体じゃ無理か...」
黒ローブの男が恐怖から立ち直り、杖を向ける。「貴様、何者だ!そんな魔法を...だが、不発なら意味がない!」
男が最後の攻撃魔法を放とうとした瞬間、地下室の天井から美しい詠唱が響いた。
「雷光よ、我が意志に従い、邪悪を打ち払え...『雷嵐召喚(サンダーストーム)』!」
天井が崩れ、マーリエルが雷光と共に降り立った。彼女の放った雷撃が黒ローブの男を直撃し、男は壁に叩きつけられて気絶する。
操られていた子供たちも正気を取り戻し、泣きながら互いを抱き合った。
気絶していたエリザベス、ガレス、ルナも意識を取り戻し始めた。
エリザベスがすぐに子供たちのもとに駆け寄り、治癒魔法で怪我を癒していく。「大丈夫、もう安全よ」
ガレスも立ち上がり、気絶した黒ローブの男を縛り上げた。「坊ちゃん、こいつをどうしますか?」
「みんな、よくやった」マーリエルが優しく子供たちに声をかけた後、鋭い視線をアルフレッドに向けた。
「さて、アルフレッド」彼女の声は静かだが、底知れない威圧感があった。「なぜ君が神話に伝わる『神雷嵐召喚』を知っているのか、詳しく説明してもらおうか」
エリザベスも心配そうに兄を見つめた。「お兄様、さっきの魔法...普通じゃありませんでした。それに、気絶している間でしたが、なんだか雰囲気が...」
アルフレッドは冷や汗を流しながら、必死に言い訳を考えた。しかし、マーリエルの翡翠色の瞳と妹の洞察力のある視線は全てを見透かしているようだった。
「それは...その...古い魔道書で読んだことが...」
「時間はたっぷりある」マーリエルは微笑んだが、その笑顔は少しも温かくなかった。「ゆっくりと、最初から話してもらおう」
ガレスとルナも心配そうにアルフレッドを見つめる中、彼は自分の秘密がついに暴かれる時が来たことを悟った。
雷雲が去った後の静寂の中で、新たな物語の幕が上がろうとしていた。
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