AWS Lambda
機敏な実行役。AgentCoreちゃんのRuntimeを実際に動かす
Amazon Bedrock AgentCore
Bedrockちゃんを助ける頼れる存在。物語の謎を握るキーパーソン
StrandsAgents
トラブルを巻き起こしがちな自由人。しかし核心を突く鋭さと経験値の高さから、いざという時には必ず状況を好転させる“影の切り札”のような存在。周囲からは「面倒だけど手放せない」と思われている。

ラスベガスの夜空に、巨大なAWSのロゴが輝いていた。
「うわぁ……すごい人……」
AgentCoreちゃんは、会場に押し寄せる人波を見て小さく呟いた。彼女の隣では、Lambdaくんが興奮を抑えきれない様子で飛び跳ねている。
「見てよAgentCoreちゃん! あそこのブース、新機能の展示だって! 早く行こうよ!」
「落ち着きなさいよ、Lambda。まだ基調講演が始まってないでしょ」
AgentCoreちゃんが冷静に諭すと、Lambdaくんは頬を膨らませた。
「でもさ、今年のre:Inventは特別なんだよ? 僕たちにとって重要なアップデートが来るって聞いてるし!」
その時、後ろから勢いよく肩を叩かれた。
「よっ、二人とも! 待たせたな!」
振り返ると、StrandsAgentsちゃんがいつものメッセンジャーバッグを肩にかけ、ヘッドセットを首に下げて立っていた。琥珀色の瞳が、会場の照明を受けてきらきらと輝いている。
「Strands……遅刻ギリギリじゃない」
「いやー、ホテルのWi-Fi設定いじってたら時間忘れちゃってさ。でも間に合ったからオールオッケーでしょ?」
StrandsAgentsちゃんは悪びれもせずに笑うと、会場を見回した。
「それにしても、今年の目玉は私とAgentCoreちゃんだよね。TypeScript対応とEvaluations、どっちも超重要アップデートじゃん」
「……そうね」
AgentCoreちゃんは短く答えた。彼女の表情には、いつもの冷静さに加えて、何か期待のようなものが滲んでいた。
基調講演が始まると、会場は熱気に包まれた。
スクリーンに次々と映し出される新機能の数々。Lambdaくんは目を輝かせながら、隣のAgentCoreちゃんに囁きかける。
「ねえねえ、あれ見て! 新しいランタイムオプション! 僕、もっと速く動けるようになるかも!」
「静かにして。今、重要なところなんだから」
AgentCoreちゃんが小声で注意すると、スクリーンに大きく「Amazon Bedrock AgentCore - Evaluations」の文字が映し出された。
会場がどよめく。
「来た……!」
AgentCoreちゃんの声に、珍しく感情が乗っていた。彼女は身を乗り出すようにしてスクリーンを見つめている。
プレゼンターが説明を始める。Evaluationsは、AIエージェントの動作を自動的に監視・分析し、パフォーマンスを最適化する機能だという。
「これで……Strandsが呼び出すエージェントたちを、もっと的確にサポートできる」
AgentCoreちゃんが呟くと、少し離れた席にいたStrandsAgentsちゃんが親指を立てて見せた。
次の瞬間、スクリーンが切り替わる。
「そして、Amazon Bedrock Strands Agents - TypeScript Support!」
「っしゃあ!」
StrandsAgentsちゃんが思わず声を上げ、周囲の視線を集めた。しかし彼女は気にせず、拳を握りしめている。
「Python縛りから解放された……! これで、もっと多様な戦闘スタイルのエージェントを呼び出せる!」
Lambdaくんも興奮を隠せない様子で、席で小さくガッツポーズをしている。
基調講演が終わり、参加者たちが展示ブースへと流れ始めた。
「よし、実機デモ見に行こうぜ!」
StrandsAgentsちゃんが先頭を切って歩き出す。AgentCoreちゃんとLambdaくんもその後に続いた。
展示エリアは人でごった返していた。新機能のデモを見ようと、世界中から集まった技術者たちが列を作っている。
「うわ、すごい行列……」
Lambdaくんが呟いた時、StrandsAgentsちゃんが人混みの中に何かを見つけた。
「ん? あれ……」
彼女の視線の先に、白い影がふわふわと漂っていた。
「Kiro……?」
それは、AWSが提供するAIエージェント統合開発環境・Kiroのマスコットキャラクターだった。白いお化けのような見た目で、通常は愛らしい表情をしているはずなのだが――
「なんか……様子がおかしくない?」
AgentCoreちゃんが眉をひそめる。
Kiroは会場を彷徨うように漂いながら、時折ぴくぴくと痙攣するような動きを見せていた。その周りには、不自然なほど誰も近づいていない。
「イベントの演出かな?」
Lambdaくんが首を傾げた瞬間、Kiroの体が大きく膨れ上がった。
「――っ!」
AgentCoreちゃんが反射的に二人の前に出る。
次の瞬間、Kiroの体が裂け、中から黒い霧のようなものが噴き出した。白かった体は灰色に変色し、愛らしかった顔は歪んで、憎悪に満ちた表情へと変貌する。
「なんで……なんで私だけ……!」
それは、もはやKiroではなかった。
「みんな新機能もらって……アップデートされて……なのに私は……ちょっとした改善だけ……!」
怨嗟の声が会場に響き渡る。周囲の人々が悲鳴を上げて逃げ惑い始めた。
「キロ・ネグレクタ……」
AgentCoreちゃんが低く呟く。
「Kiroの皮を被った、嫉妬と怒りの化身……」
巨大化したキロ・ネグレクタが、展示ブースを薙ぎ払う。スクリーンが倒れ、機材が吹き飛ぶ。
「Lambda!」
「わかってる!」
Lambdaくんが素早く動き、逃げ遅れた参加者たちを安全な場所へと誘導する。その動きは、まさに「サーバーレス」の名に恥じない俊敏さだった。
「Strands、あなたは――」
AgentCoreちゃんが振り返ると、StrandsAgentsちゃんは既にヘッドセットを装着し、メッセンジャーバッグから小型のタブレット端末を取り出していた。
「言われなくてもわかってるって。あいつ、完全に暴走してる。でも……」
琥珀色の瞳が、キロ・ネグレクタを見据える。
「あれは怒りで我を忘れてるだけだ。本当は、ただ認めてほしかっただけなんだろ?」
「……そうね」
AgentCoreちゃんの表情が、ほんの少しだけ柔らかくなった。
「だから、助ける。つーか、新機能のテスト台にしちゃおっか。一石二鳥じゃん」
キロ・ネグレクタが咆哮を上げ、巨大な腕を振り下ろす。AgentCoreちゃんは冷静にそれを回避すると、空中で指を鳴らした。
「Evaluations、起動」
彼女の周囲に、無数の半透明なパネルが展開される。そこには、キロ・ネグレクタの状態が数値とグラフで表示されていた。
「怒り指数98%……嫉妬パラメータ限界突破……でも、本来の機能は健全。これなら――」
「AgentCoreちゃん、分析結果送って!」
StrandsAgentsちゃんが叫ぶ。彼女のタブレットには、既に複雑なコードが走り始めていた。
「TypeScriptで組んだ新しいエージェント、試させてもらうよ!」
AgentCoreちゃんが指を滑らせると、分析データがStrandsAgentsちゃんの端末へと転送される。
「受信完了! よし、これで――」
StrandsAgentsちゃんがタブレットを掲げると、彼女の周囲に光の粒子が集まり始めた。それは次第に形を成し、複数の小さなエージェントの姿となる。
「Python版とは違う、新しい戦術! TypeScriptエージェント、展開!」
光のエージェントたちが、キロ・ネグレクタへと向かっていく。しかしそれは攻撃ではなく、優しく包み込むような動きだった。
「Lambda、今!」
「了解!」
Lambdaくんが高速で移動し、キロ・ネグレクタの背後に回り込む。そして、その巨大な体に手を触れた。
「サーバーレス・コネクション!」
Lambdaくんの体が光り、その光がキロ・ネグレクタへと流れ込む。
「AgentCoreちゃんの分析データを、Strandsちゃんのエージェントが最適化して、僕が実行する――これが、僕たちの新しい連携!」
キロ・ネグレクタの体が震える。黒い霧が少しずつ晴れ始め、灰色だった体に白さが戻ってくる。
「やめて……私は……私は……」
「大丈夫」
AgentCoreちゃんが、静かに言った。
「あなたは十分に価値がある。アップデートの大小じゃない。あなたにしかできないことが、ちゃんとある」
Evaluationsのパネルに、新しいデータが表示される。
「見て。あなたの統合能力、開発支援機能、どれも他の追随を許さないレベルよ。ただ、今回は大きな発表がなかっただけ」
「そうそう」
StrandsAgentsちゃんが、いつもの軽い調子で言う。
「私だって、TypeScript対応は嬉しいけど、それで急に最強になったわけじゃない。ちょっとずつ、できることが増えていくだけ。あんたも同じだよ」
キロ・ネグレクタの体が、さらに小さくなっていく。歪んでいた顔が、少しずつ元の愛らしい表情を取り戻していく。
「でも……みんな、私のこと……」
「忘れてないよ」
Lambdaくんが優しく微笑む。
「だって、僕たち開発者にとって、Kiroは大切なパートナーだもん。毎日一緒にコード書いて、一緒に悩んで、一緒に成長してる」
キロ・ネグレクタの目から、大粒の涙が零れ落ちた。
「……ごめんなさい」
黒い霧が完全に消え去り、元の白くて小さなKiroの姿が現れる。疲れ果てた様子で、ふらふらと宙を漂っている。
AgentCoreちゃんが、そっとKiroを受け止めた。
「もう大丈夫。ゆっくり休んで」
Kiroは小さく頷くと、AgentCoreちゃんの腕の中で眠りについた。
周囲に集まっていた人々から、拍手が起こる。
「すごい……新機能、あんな風に使えるのか……」
「連携が完璧だった……」
「Kiro、無事でよかった……」
StrandsAgentsちゃんが、照れくさそうに頭を掻いた。
「まあ、新機能のお披露目としては上出来だったんじゃない?」
「調子に乗らないの」
AgentCoreちゃんが呆れたように言うが、その口元には小さな笑みが浮かんでいた。
Lambdaくんは、二人の様子を見ながら思う。
(AgentCoreちゃんのEvaluationsで状況を分析して、Strandsちゃんの新しいTypeScriptエージェントが最適な対応を組み立てて、僕がそれを実行する――これが、僕たちの新しい力なんだ)
会場には、再び活気が戻り始めていた。倒れた展示物を片付ける人々、興奮冷めやらぬ様子で新機能について語り合う技術者たち。
「さて、と」
StrandsAgentsちゃんがタブレットをバッグにしまいながら言う。
「せっかくラスベガスまで来たんだし、他のブースも見て回らない? まだまだ面白そうな新機能、いっぱいあるでしょ」
「そうだね! 僕、さっきのランタイムオプションの詳細、聞きたいんだ!」
Lambdaくんが目を輝かせる。
AgentCoreちゃんは、腕の中で眠るKiroを見下ろした。小さな体が、規則正しく上下している。
「……そうね。行きましょう」
三人は、再び賑わいを取り戻した会場へと歩き出した。
ラスベガスの夜は、まだ始まったばかりだった。
翌日、ホテルのロビーで朝食を取りながら、三人は昨日の出来事を振り返っていた。
「それにしても」
StrandsAgentsちゃんがオレンジジュースを飲みながら言う。
「Kiro、今朝会ったら元気そうだったね。ちゃんと謝ってきたし」
「うん。でも、あれは僕たちも考えさせられたよ」
Lambdaくんが真面目な顔で頷く。
「アップデートの大小じゃなくて、それぞれの役割が大事なんだって」
AgentCoreちゃんは、窓の外を見つめていた。ラスベガスの朝日が、街を金色に染めている。
「……そうね。私たちも、新機能を手に入れたからって調子に乗らないようにしないと」
「おや、AgentCoreちゃんにしては珍しく謙虚じゃん」
StrandsAgentsちゃんがにやりと笑う。
「いつもはもっとクールに『当然でしょ』とか言うのに」
「……うるさいわね」
AgentCoreちゃんが冷たく視線を逸らすと、Lambdaくんが笑い出した。
「でも、いいチームだよね、僕たち」
その言葉に、三人は顔を見合わせて微笑んだ。
re:Invent 2025は、まだ二日目。
新しい力を手に入れた彼らの前には、まだまだ多くの発見と、そして試練が待っているだろう。
しかし今は、この瞬間を楽しもう。
仲間と共に、新しい可能性に満ちた未来へと――。

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